轢かれた時のねトラックに
千切れて飛んでった左手どんなに探しても
見つからなかったんだって
なんでなんだろうね未だに謎で
それでわたしはいつかこう思うようになった
わたしの手はどこかにまだあって
わたしの手は手っていう
ひとつの生き物になって今も
生き続けているのかもしれない
それでそういう手はわたしの手以外にもきっとあってね
つがいになって増えてるのかもしれなくて
増えて増えて進化してって
魚のように蛙のように鼠のように鳥のように進化して
見たような気がするの
魚群にまじってひとつ泳ぐ鱗のある手を
見たような気がするの
水田の畦道をのぼる水掻きのある手を
見たような気がするの
下水の蓋の隙間から通りをうかがう指先を
見たような気がするの
空を埋め尽くすフラミンゴを率いて羽ばたく桃色の
両の手をだからかな
手首の先のもう失くなってるのにね
痛いような痒いような
楽しいの
ねえ寝ている間に
誰かに手を握られていたような目覚めは
獣になった左手がわたしの右手を犯しに来た
余韻だったのかもしれないね