真夏の静電気

そう、うん、そう。あれは弟だったのかもしれないそうだったのかもしれない。

朝。ブラウスのボタンを音ゲー的にじゅんぐりどんどん留めてってひとつミスしてフルコンボならずなのも、財布鍵スマホ目薬ハンカチティッシュを揃えるのまでの目の手の足のジグザグなのも恒例のわたしの、朝。もう行かなきゃ。捨てなきゃなもうあのバター。開いてないやまだあの封筒。部屋の鍵をゆっくり回しながら、そう、うん、そう。あれは弟だったのかもしれないそうだったのかもしれない。昨日の夜の玄関の、ノブに走った静電気は弟だったのかもしれない、いやでもあれ?一昨日の夜だったかもしれない。

仕事が終わらない積み上がる嫌いな人がいなくならない来年はいいかもしれない、でも再来年ぐらいになるかもしれない良くなるのは。カップの、茶渋を、おとしたい。電話が鳴る一瞬前に外線のランプが光るから音が鳴る前に受話器を取るわたしは未来予知能力を備えた仕事のできる魔女みたいだけどまだ見習いだから、電話先のお得意様と調子よく喋りながらのペン回しをミスって滑ってペン飛んでってブラインドの手の届かない上のほうに引っかかってペンが。でも良し。誰も気付いてない。もうわたしに残されたのは蛍光ペンだけです。蛍光ペンを剣に変えてばっさばっさと自分の書類を添削してったらすっごいいっぱいミスが見つかった。どうした昨日の自分。

帰りになにか買って晴らそうにも買いたいものがわからない中買ったのがサイケデリックなゾウの置物でした。そう、うん、そう。これ多分不正解。大正解桃色カバの口の中小物入れが帰り道に見つかる今更、買わない、買いたい、いらない、いるかも、いや買わない。ゾウずっしり。

部屋でナッツを食べながら暇すぎて貯金箱にナッツを入れてみようってなって貯金箱、詰まった。振り返るとちょっとあいてるカーテンにちょうど三日月昇っててもう貯金ができなくなったわたし盗み見られてました。眠い。細い。嘘みたいに細い。いつものよりも絶対この三日月細い。そう、うん、そう。あんな光る切り傷ならつけたい。

炊飯器開けたら中に蛇が入ってて「静かにしてくれ」と言った。夢だった。おはよう。蛇ごめん。仕事が終わらない積み上がる嫌いな人がいなくならない小学生6年生の時の出席番号が思い出せない。16 ?17。18?16。17?18、わたしの番号は、あれ?好きだった担任の名前もだわかんない、いや嫌いだったんだっけわたしあの先生、記憶、最近、時々、ちゃんとしてない。3代目インコの名前、4代目の男の本名、退職した初代上司の顔とかも、もう思い出せないあとは昨日の、ほとんどのこととかも遠雷。あ、遠雷が聞こえる。

そう、うん、そう。偉大な魔女の詠唱時間みたいに急に辺りが暗くなって風が吹いて寒くなるぞ。雷鳴るぞ。鳴って晴らそうととしてるんでしょ空も。雷。弟もあそこにいるんだ。時々静電気になって挨拶にくる。さあ最強のスコールになれ。みんなの準備を台無しにしろ。

椎茸が香る。それだけだった。雨の匂いだけ。遠雷更に遠のいて隣の街だけ濡れたみたい。わたしはこの匂い椎茸の匂いだって思ってるの雨の匂い、そう思ってる。さよなら雷と椎茸、弟をよろしく。

通り過ぎたおばあちゃんの顔のシワがすごくよかったかもしれない追いかけたい。好みのシワだった1時間凝視したい。魚拓とりたい。魚拓とってジグソーパズルにすれば暇なんかなくなるのにな。