雨が降ってて。学校から帰る途中だったの。こう、わたし、傘をさしてた、歩道を、足元を見ながら歩いてて、ふと、暖かいなと思ったの。前の方が、暖かいなって。それって変で、雨の日の下校時に、暖かい風みたいなのを感じる、変だから、わたしは傘を後ろに傾けて、前の方を見たんだ。
全身が炎に包まれた子供が、私の前を歩いていた。背を向けて、私の歩く速度とおんなじに、ゆっくりと、歩いていて、わたしとおんなじ、ランドセルを背負っているから、小学生なんだろう。全身が、燃えてるの。雨の中、人通りのない道、わたしは、燃えている子の後ろを、歩きながら、歩きながらわたしはその時、思った、なんだか静かだなって、思ったの。
その子はだから、熱そうにしているとかじゃない、ただ、歩いてる。燃えてるけど、そうなの。男の子か女の子か、服装とか髪型とか、ランドセルの色とか、わからなくて、その子、傘、さしてなくて。わたし、そのことを、どう考えたらいいか、悩んだんだ。
炎に包まれた子が、雨の中を歩いている時、傘をさしていないということが、そのほういいのか、どうでもいいのか、困っているのかもしれない、でも、聞くのもどうなんだろう、だって、知らない子だし。
ふとその子が、角を曲がったの。わたしの家はまっすぐだけど、わたしも曲がって、わたしたちは縦に並んだまま、その先の神社に入っていった。その頃にははっきりとわかってたんだけど、今この世界には、わたしとこの子しかいない。家とか車とかそこらに普通にあるし信号が光ったり、だけど二人しかいない世界ってなってる、それがわかるの。なんだか本当に、静かなんだ。
その子はゆっくりと社の前まで進むと、燃える手が紐へ伸びて、神社の鈴を鳴らして、拍手をした。それらの乾いた音が、雨音に溶けていく、わたしはそれを後ろで見ていたんだけど、その子がお辞儀を終わらせて、振り返った時。うん。わたしは咄嗟に、その子の顔を見てしまわないように、視線を傘で、塞いだんだ。
怖かったんじゃない。違うよ。恥ずかしかったの。そう、途中から、友達になれるかもしれないって、思ってたんだ。だけどわたしだけが相手を見ていて、その子は私のこと今初めて見たわけだし、それでなんだか、恥ずかしくなって、傘で顔を隠したんだ。
熱くなる。その子がこっちに近付いてくる。横を通り過ぎる時、傘の下から足の炎を覗きながら、近くまで来ると本当に熱くて、本当に燃えてる、それよりも、声をかけられない自分が嫌いで、傘の柄を力一杯、握ってた。
ふと、神社の隣の家のテレビからだろう、笑い声が聞こえてきた。しまった、世界が戻ったと思って、振り返ったら、やっぱりもう、燃える子はいなくなってた。わたしは取り残されたようで、寂しくて、だから傘を閉じて、あの子みたいに雨に降られてみることにした。そんなことをしてもただただ冷たいだけ、知ってる、むきになってわたしは、閉じた傘を握りしめたまま、家まで走って帰ったんだ。

