或日彼女が鯨だった
呼んでみるともう
名前が無かった
後ろ髪の匂いが
頭に乗ったメガネが
まばたきが君だ
それにさっきから
実家の岡山の方角ばかり見ている
爪切りの途中らしかった
こんな別れがあるもんか
あんまりだと告げても
もう鯨だ
つまんで拾った爪を弾くと
最後に抱いた先々週が
北極海に溶けていく
さよならですらなくてもいいから
待ってくれ
救急車の音が
落ち葉をめくって
僕の襟にとまる
鯨は黙ったままだった
或日彼女が鯨だった
呼んでみるともう
名前が無かった
後ろ髪の匂いが
頭に乗ったメガネが
まばたきが君だ
それにさっきから
実家の岡山の方角ばかり見ている
爪切りの途中らしかった
こんな別れがあるもんか
あんまりだと告げても
もう鯨だ
つまんで拾った爪を弾くと
最後に抱いた先々週が
北極海に溶けていく
さよならですらなくてもいいから
待ってくれ
救急車の音が
落ち葉をめくって
僕の襟にとまる
鯨は黙ったままだった