棒人間の黄昏

只々日々

かつて、一向になつかない猫対策として「棒人間」を目指したことがあった。

きになるひと
猫がなつかない。三匹猫を飼っていたが今は一匹のみになってしまった、という話を以前の日記に書いたが、この残った猫が、とにかく臆病で人間に対する不信感が根強く、もう…

永遠に人馴れしないうちの猫が僕に許したたった一つのコミュニケーション方法、それが「棒で触る」だった。

もう5年以上飼ってる猫なのだが、まずまともに近寄らせてくれないし、無論触らせなどしない。ところがある時点から、棒を用いてちょっかいを出す分には大丈夫だと発覚したのだ。

僕という存在と猫との距離が一定保たれた上での、安全地帯からの接触。棒なで。

棒経由なら問題ないどころか、むしろたいそう喜んでおり、棒なでウェルカムぶりがすごいというか、棒なで触らせ祭りが開催されることもしばしばなのであって、ゴロゴロいいながら転げ回ったりとフィーバーが止まらなくなったりするのだった。

この流れでならと手で触ろうとすると、残像だけ残す勢いで脱兎のごとく逃げていくので納得がいかない。直ではやはり駄目らしい。

この状況がずっと続くのだろう、全くなつかなかった時より余程良い、そんな諦めと共に猫との暮らしを重ねていたのだが、最近、思いがけない進展を迎えることになった。

「足で触る分には許す」という進展である。

おそらく猫は僕の本体、顔面との距離感に重きを置いており、足で触る際、丁度棒でさわるのと同じように、僕という存在が安全地帯を脅かさないと判断しているようなのだ。おかしな話だ。足も僕自身なのに。まあ足なら、捕まらない、と思うのだろうな。

次第に猫を足で撫でることが妙に上達していく自らになんだこの事態と思いながら、不意に気付く。今まさに僕は「棒人間」になった、と言えるのではないか?僕という名の棒がここに。悪の組織に改造人間にしてもらわなくても、まさかこんなルートで辿り着く棒人間の境地があったとは。

僕の足で撫でられながら踊るように喜ぶ猫に、そっと手を伸ばす。光の速さで逃げ出していく猫。油断するな、忘れてはいけない。猫が好きなのは棒、僕ではない。棒は手を伸ばしたりしないのだ。完全なる棒へ道のりは険しいが、僕が目指していたのは本当にこの事態なのか、ちょっとわからくなってきてはいる。