ところてん

「ところてんって呼ぶことにしたの」 
「ひどいね、それ」 
「こころのなかでね」 
「かわいそう、お父さん」 
「かわいいじゃない、すこし」 
「すこしね」 
「ところてんおとうさん」 
「ああ」 
「ね」 
「かわいいね」 
「仕事から帰って来てね、つるっと食卓に座ってさ、ぼうっと、ぼそっとね、言うの」 
「なんて?」 
「火の用心」 
「え?」 
「・・・」 
「あ」 
「うん」 
「読んじゃったの?あの、よく壁に貼ってあるよね、火の用心ってシール」 
「読んじゃうの」 
「ああ」 
「つるっとね」 
「つるっと読んじゃうのね」 
「それで私はね、ああ、お父さん今日はいつもよりちょっと疲れてんのかなあ、とかって思うわけ」 
「ほんとなの?」 
「うん。私はもしかしてね、そんな、つるって座って、つるって壁のシールの文字とか読んじゃうお父さんの、そのところてん感がね、羨ましいのかもしれないのね。それが、悔しいのよ。」 
「へえ」 
「そんな反抗期」