水滴による雨の夢


ガラスを伝う水滴を見る のと等しく 僕もガラスを伝う水滴である 夕方が終わる のと等しく 僕も夕方を終えるのである 僕は確かに水滴であり 僕は確かに夜に交わり 特には他に ないのであって 眠るのである  
僕は夢の中に雨に降られる のと等しく 僕も僕に降る雨になって すると学校や駅やコンビニも 僕に降られているのである 僕はそれでもかまわないので 雲が枯れるまで そのまま意気込ます降り続き それはだんだんに楽しくなって 僕は笑う雨になるのである   
だからといって街は笑わず 僕の夢に僕は一人ぼっちである 僕はそれでもかまわないので そのまま意気込まず降り続き 雲が枯れるまで笑うのである 僕の夢にぼくの街は僕の雨である それで僕は一人ぼっちで笑うのである  
しかし 飢えた犬や錆びたブランコや格別に美人な人などは 濡らさない様にしたいので そう努めるのであるが どうしたらそれができるのかもわからず そのうちに僕は雨であることを嫌になり そうすると僕は夢から覚めて 起き上がることになるのである  
夜は押し出されてすでに朝であり 僕も押し出されて朝食である 食卓に乗ったハムは昨日夕方の終わりにガラスをつたった 水滴なのかも知れないので 僕は関わらない様に斜めに座り そうして見ると僕の家族はみな斜めに傾いて見え 僕の家もきっと傾いて立って見えているはずなので 僕は僕の身の回りの様々に 関わらない様に閉じるのである  
玄関を出ると雨である 僕は雨の復讐かと少し震え そんなときは黒い大きめな傘である 僕は雨を塞ぎ 雨は僕を塞ぐので 僕は傘の内側で 夢の中と同じように一人ぼっちである 通り過ぎる子供は黄色い傘の中で 僕はもう面白くないと思っている小さな事やくだらない事や下品な事で しきりに笑うのであるが 僕は雨の敵であり 雨は僕の敵である 僕の夢のなかで僕に汚された雨のプライドは 黒い傘をけたたましく叩いているのである 夢の中に笑う雨であった 僕を責めるのである 不規則で それは不愉快なリズムである  
駅の入り口に 何の手抜きかいつも出来上がる 巨大な水溜りは 休みなく兄弟を呼び寄せて もはや手をつけられないのであって 迂回するにも気を抜けないのである 海の名を与えて油断させ 僕はすんでにそれを超え すんでに電車のドアの中 乗客はみんな緑色の電車の中で 降り続く不規則で不快な雨のリズムから 閉じている様子であるので 
昨日の夢はもしかして僕一人のものでなく それはみんなに訪れた夢なのかもしれないのである 中年の握る 湿った新聞紙の香りに僕はなぜか少し安らぎ 僕等はやはり夢の中に雨を汚した 友達なのかもしれないと思うのである  
だらしなく温まった電車に 水滴はやはりガラスをつたっているので それを見つめていればその内に僕は ガラスを伝う水滴と等しくなって ゆっくりと運ばれるのである  
僕は漠として それでいて正しく閉じ 下に 下に ゆらゆらと ガラス枠の中の風景の中を つたうのである ダイアは正確であろう 僕は次の駅で押し出され 黒い傘に守られて 夕暮れまで行くのである