おしゃまなおたま

只々日々

しょちゅう、背中が痒くなる。食後とか、体があったまった時などに著しいが、そうでなくとも不意に痒くなりがちな体質なのであって、その度に困ったことになる。

僕の背中の痒いポイントというものは、必ずちょうどぴったり手が届かない場所に出現するように神にプログラミングされており、どんなに頑張っても道具を使わないと無理なシステムとして構築されている。しかし痒みの出現タイミングには基本的にランダムエンカウント方式が採用されているから、その都度具合良く孫の手に該当する便利アイテムを手元に有しているわけもなく、従って、困ったことになるって寸法だ。

これは僕が将来巨万の富を得る為の秘密の情報として保持しておいたことなのだが、ここだけの話、世界で最も背中を掻くのに適したアイテムは、料理につかう「おたま」である。ある日背中の痒みに耐えきれず手近にあった金属製のおたまで背中を掻いたところ、その超絶最適ぶりに度肝を抜かれた。おたまが背中の痒みを擦り取る時、快感のあまり脳内に銀河系の映像が浮かび、同時にその銀河系の向こうでクイズの正解音が鳴り響いた。正解はおたまだった。

「おたまの孫の手」は金属製の安いおたまで機能としては既に完成系と言ってよく、僕は将来持ち手の部分に「孫の手」と刻印することで完全なる僕オリジナルの商品として販売する計画を立案済みなのだが、しかしやはりおたまは携帯性の点で問題がある。胸ポケットからおたまが出てたら邪魔だし、人として問題があるし。いつ何時も背中の痒みに対応可能な、そういうアイテムはないものだろうか。

肢の部分は伸縮する指し棒と同じタイプで、財布の中に入るとかスマホケースにくっつけておけるとか、峰不二子が持ってる踵から刃物がでる靴を借りてきて孫の手と入れ替えるとか、気軽に、そして忘れずにいつでも携帯できるとよいだろう。

携帯性に優れたアイテムにするには先端部分がやっかいで、背中を掻くのに適した形状にすると、邪魔になってしまう。ワンタッチ傘のように、ボタンを押すと先が熊手状に広がるとか、どうだろうか。そんな感じの商品、待ってます。

なぜこんなビジネスチャンスをビジネスマンが逃しているのか理解できない。市場はもっと背中に注目してほしいものだ。孫の手大陸にはまだまだ未開拓領域があり、きっと金脈が眠っている。各企業の健闘を期待したいが、もし儲からなくても僕がすごく褒めてあげるので安心してほしい。