母の桃

例えば急に晴れたらしい空すら、
敵だった。
付いてないテレビを随分長い間眺めた後、
なにかぶっきらぼうなことをしてみたいと思い私は、
携帯を居間のテーブルの上に放り投げるてみると、
結構盛大にガシャンとなった上、
なぜかかたっぽだけ置き去りだった箸に当たって箸は、
ひどく格好よく回りながら飛んでったりしたが、
そんなの全部が、腑に落ちた。
それらは今のイライラと丁度釣り合っているのだ、そう思った。
ふと見れば、
母はずっとキッチンから、そんな私を見ていて、
私を平穏に見ていて、
私はその意味を図りかねたので、
さっきのぶっきらぼうをもう少し鋭利にして、
母になにか言ってやろうと思った。
すると母は、ひどくすべらかに私に近づいてきて、
楊枝で刺した一切れの桃を、
私の尖った口に滑り込ませてきた。
私はあらゆる悪意を吸い取るかのような、
ぬるっと甘い不意の桃に、
面食らって静止した。
目を丸くしている私を、母は笑うと思ったのだが、
母はキッチンに戻ると、
自分も桃を一切れ口にして、
また平穏に私を見るのだった。
桃に盗られたイライラが、まだ肩に少し残っているのを感じて私は、
ひとつかふたつ、息を吐いた。