東の街の鉄塔を洗ったら、私を犯すのだと笑う。私はそれで別に、かまわない。
西の鉄塔を洗ったら、緑の鉄塔だったんだ。
街の誰もそれを知らなかった。その鉄塔はもうずっと灰色く汚れていて、 誰もそれを緑色だと知らなかったんだ。東の鉄塔を洗ったら、私を犯すのだと笑う。私はなんとも答えない。
ガスタンクが見えるんだ。 役所の奥の、いや、右だ。 あれは本当は三つある。 下からだと見えないんだ。 あんなにでかくて丸いガスタンクは、 どうやって洗うんだろうな。 でも鉄塔の上から見ると、 まるで指先で拭けるんじゃないかと思えるんだ。 東の鉄塔を洗ったら、私を犯すのだと笑う。私はそれで別に、かまわない。
新しい洗剤ができたんだ。 でも水との合わせが難しい。 今までのブラシじゃ駄目なんだ、もっと、目が細くないと。 仲間はそれを認めないんだ前の洗剤のほうが、 いいって言うんだ。 東の鉄塔を、私は知らない。西の鉄塔を、私は知らない。 私はそれで別に、かまわない。
振るはずの空は、それを忘れた。 窓の下を走る赤い自転車を目で追いながら私は、 カーテンを替えよう、と思った。
これだから天気予報は。 帰って道具の手入れをしなきゃ。 このぶんじゃ、 明日も晴れるかも知れない。 いいか、東の街の鉄塔を洗ったら、お前を犯すんだ。 私はなんとも答えない。私はそれでも別に、かまわない。 昨日転んでできた傷を触りながら、 私のラジオを返せ、 とだけ、私は言った。