木目コーヒー銀閣寺

喫茶店に男と女。
別れ話がはじまっている。
「木目」
「誰だよそれ」
「黙っててごめん」
「木目って、俺の知ってる男か?」
「え?違う、木の木目」
「え?」
「ずっと一緒なの、大好きなの、木目が」
「木の木目?」
「いつも持ち歩いてる」  

女、木の板を取り出す。

「ほら」
「スマホ」
「そう、スマホと同じ大きさが、持ち運びに便利」
「え、それ単なる木の板なんだ。ずっとスマホかと思ってたわ」
「例えばこう、喫茶店来るでしょ?コーヒー飲むでしょ? それで、こう、木の板置くでしょ? それで、お話するの、木目と」
「ああ、それ木の板だったんだ。角がいい感じに丸まっててスマホかと思ってたわ」
「この子はね、ちょっと、いたずらっこ」
「どうやって、何?お前何言ってんの?木の板とお話するんだ?」
「板はいっぱい持ってて、色々に持ち歩くの。今日はね、この子。ちょっと、いたずらっ子なの」
「いやさっき聞いたし、何っ子でもいいけど」
「どう?」
「その、どう?は怖いわ。いや、ちょっと前からずっと怖いわ。お前それ、つついたりこすったりしてて、俺それずっとスマホかと思ってたわ。木の板だったんだ」
「わたし、木目とお話するの。子供の頃からそうなの」
「木目柄のスマホケースかと思ってたら、反対側も木目っていうか、それ木の板だったんだ。俺スマホかと思ってたわ」
「なんでも聞いてくれて、なんでも話してくれる。この線、この波、この渦、やさしくて、ものしずかで、何でも知ってて」
「何にも知らないだろ、木目は。っていうか何?木目が一体どうした?」
「愛してるの」
「木目に浮気されてんの?俺」
「やめてよ、プラトニックなのよ」
「何トニックでもいいけど、ちょっと貸して」

男、木の板を持ち、眺める。  
女、慌てて、別の木の板、数枚を出す。

「いや、お前何やってんの?」
「みんなであなたを監視してるの」
「何もしないよ、ちょっと見せてもらうだけ」
「この子はね、おっちょこちょい。この子はね、ぼんやりさん。この子はね、何も考えてない」
「全部監視に向いてないな。もういいよ、返す」  

女、木の板を受け取ると、ふわっとした布でしきりに拭く。

「傷つくなあ」
「大丈夫だよ、ふわっとした布だから」
「俺がだよ。お前アレだな、銀閣寺とか行ったら大変だな」
「え?」
「銀閣寺行ったら大変だな」
「でも私、木目見知りだから」
「人見知りのことか?お前よく木目見知りって、すらすら言えたな。初めてじゃないだろ、木目見知りって口にするの」
「恥ずかしいの、初めての木目と話すの。緊張しちゃう。銀閣寺なんて行ったら緊張しちゃう」
「別れよう」