ドラゴンエッグ序

山奥の小さな学習塾。その先生と女の会話。 
先生の育てる或生き物の卵を、食べ続けるというアルバイトの募集を見て、都会からやってきた女。 

 「卵を食べ続けろと言われたとき、素敵な事だなあと、おもった。悪くないバイトだったやっぱりって。そんなにも卵だけを食べ続けたことなんてないけど私きっと大丈夫だろうなって。ここだって、私、悪くないと思うんだ。窓からね、下の街ちょっと見えるんだよ。ちっちゃくね、新しくできた橋も見える。別に、つまんないとか感じないなあ。相談係も、いい人だしね。かっこいいと思うよ実際。好きよ私。 
逃げ出しちゃったかま君大丈夫?やっぱこらしめんの?契約にあったよねたしか。罰金いくらだっけ?彼なんかね、嫌いだったんだ。気持ち悪いの笑い声が。でひひひひって。ペン子と仲良くなってて、不思議、私気気持ち悪いけどなあ彼。 
注射されんのもなれたよ。美人よねあの人。あのさ私思うんだけど、ここのスタッフきれいどこ集めてんじゃない?ずっと同じとこいて、ずっと同じもん食わしたりしてっからさ、ストレス貯まんないように、なんていうの、嫌われにくい人選んでるっていう感じ。  

なんの卵かって話をね、いつもするじゃない皆と。私思ったの。こんだけ卵ばっか食べてても平気なのって、どんなのの卵だろうって。私ね、竜だと思う。竜の卵。 
宇宙食なの。宇宙に連れてくのね竜を。竜はポコポコ卵産むのね、その、宇宙飛行士の為に。その竜一匹連れてけば、食料は心配要らなくなるっていうような。そういう、便利な竜。宇宙に竜って、なんか合ってるし。ね、正解っぽいでしょ。もうね私そうなんだって思い込んでるの。 
だからね、相談係さん。私平気だよ。契約の終わりまで続けられる。最初とおんなじに、今も素敵なことだなあって、思ってるし。 
ペン子がね、よく言うの。遺伝子操作されたおっかしな生物の卵だったらどうするのって。もしほんとに竜だったとしてさ、竜って中国人が考えた、幾つかの生物を組み合わせたようなやつじゃない。ほんとに竜ならさ、やっぱ遺伝子操作とかして作るんだと思うんだよね。そうすると、私やっぱ平気なんだよね。竜の卵を、食べるんだったら。」